9月6日のオープニングコンサートに向け、9月1日に金沢入りされたピアニストの菊池洋子さん。本番までの3日間、なんと菊池さんは、春に予定されていた公開レッスンの受講生の方を中心とした、特別レッスンを行ってくださっています!
昼から夜までびっしり詰まったレッスンスケジュール。受講されている方は小学生から大人まで様々ですが、一つだけ共通したことが。レッスン室に入る前の緊張した面持ちから一変、レッスン後はみな、清々しいお顔で帰っていかれるのです。
ガル部長、レッスン室で何が起きているのか気になって仕方ありません。部下を引き連れ、菊池さんに「ガル部長のとつげき取材!」です!さあ、皆さんもレッスン室の扉を一緒に開けてみましょう!
ガル:せんせいっガルにもピアノ教えてくださいっ!
菊池洋子さん(以下、菊池さん):
では最初の質問。ガルちゃんはどんな音楽を奏でたいのかな?
ガル:えっ…
菊池さん:
そう聞かれると、なかなか答えられないでしょう?
ガル:教えてもらえるんだと思ってたガル…
菊池さん:
私が高校生の頃、国際コンクールをよく聴きに行っていたのね。すると、素敵だなあと思うピアニストさんのご経歴を見ると、決まってイタリアの「イモラ音楽院」に在籍されていることに気づいたの。そして、のちに私が教えていただくフランコ・スカラ先生に教わっていることにも。
部下:
何か奏法に特徴がおありになるのですか?
菊池さん:
そう思うでしょう?違うんです。それぞれにとても個性的で、その個性が輝くような演奏をされるんです。
ガル:どういうことガル…?
菊池さん:
私も留学して実際に教わってみて驚いたのだけど、レッスンではまず、「Yokoはどういう弾き方をしたいの?」と問われる。先生が全て教えてくれる、それがレッスンだと思っていると何も答えられないの。でも、「自分がどう弾きたいか、何を表現したいか」を提示すれば、先生は「じゃあこういう体の使い方をするといいね」とアドヴァイスをくださる。先生のお弟子さんたちに唯一共通していることといえば、演奏での体の使い方かな。
ガル:
楽譜と、ううん、自分とちゃんと向き合わないといけないってことガルね…!
部下:
菊池さんは今、ウィーンを拠点にされていますよね(現在はコロナ禍のためご帰国中)。
菊池さん:
先ほどお話ししたイタリアを経て、ベルリン、そしてウィーン。其々の地で素晴らしい先生方との出会いがあり、尽きない探求の途上にいます。ウィーンでは、私のライフワークであるモーツァルトの研究の大家、パウル・バドゥラ=スコダ先生に教えていただく機会を得ました。モーツァルトがしたためた楽譜にある全てのもの、音符ひとつひとつ、たった一つの点にも意味があるということを改めて教えていただいたように思います。
さらにスコダ先生とのご縁から、私が何度もコンサートに足を運び、尊敬しているピアニスト、エリザベート・レオンスカヤ先生にも教えていただけることに。まだお会いして1年ほどなのだけれど、コンサートによく足を運んでくださるファンの方も「音が変わった!」と言ってくださるんですよ。
ガル:
えっ魔法ガル?!どんなこと教えてもらえるガル?!(どこまでも調子のいい部長…)
菊池さん:
大事なのは、普段の練習の仕方なんだよ、ガルちゃん。圧倒的に、自分ひとりで練習している時間の方が長いでしょう?だからこそ、普段、いかにいい練習ができるかどうかが本番での演奏を変えてくれる。レオンスカヤ先生のレッスンではたった1ページに2時間半をかけることもあるんだよ。辛抱がいるかもしれないけれど、それが確実に自分を成長させてくれるの。そしてこれが、この特別レッスンを受講してくださるみなさんにお伝えしていることなのです。
ガル:ほぇぇ…ガルもめげてないで毎日練習するガル!
部下:
いま、このコロナ禍でレッスンができない、なかには菊池さんのように海外での勉強を目標にしていたけれど先行きが見えない、不安の中にいる若いピアニストさんたちもたくさんいらっしゃいますよね。
菊池さん:
ずっと1人で練習していた、という受講生さんもいらっしゃいました。私自身も、予定されていたコンサートが軒並み中止となってしまって。このコンサートのためにこの曲を頑張ろう、と思っていたら中止、じゃあ次の…と気を持ち直して練習してもまた中止…と。塞ぎ込んでしまう日もありました。
すっぽり空いた時間。先の見えない時間。でも、だからこそ取り組める音楽がある。私にとってのそれはバッハのゴールドベルク変奏曲でした。腰を据えて一つの音楽に取り組めたことそのものはもちろんですが、この大曲をいつかみなさんに聴いていただける時を心から願って練習を続けたのです。
ガル:聴きたいガル!
菊池さん:
ありがとう、ガルちゃん。
受講生のみなさん、そしてこのインタビューを読んでくださるみなさん、必ず苦しい時は終わります。こういう時だからこそ、自分のやれることをやる。
この時間をただただ不安とばかり対峙して過ごすのと、今できることをやろう、そしていつか舞台で弾こう!そう信じて過ごすのとでは、いつか必ず来るコロナ禍が収束したその時の成長度合いは、格段に違うと思います。
ガル:ガル、モチベーションあがってきた!まずはオープニングコンサート成功させるガル!(そうですよー働いてくださいー by部下)
ガル:
オープニングコンサートといえば…ライフワークをモーツァルトにされたのはいつ頃からガル?
菊池さん:
イモラ音楽院に在籍していた頃に、私が住んでいた建物の1階に、師事していたフランコ・スカラ先生のフォルテ・ピアノコレクションが置かれていたの。日本でフォルテピアノというと複製版が殆どだけれど、なんとオリジナル!
私が最上階の部屋で練習をしていると、1階からよく先生が奏でるフォルテ・ピアノの音が聞こえてきて…丁寧に修復されて、蘇った音の美しさと言ったら!
ガル:
菊池さんのお部屋と1階のあいだのお部屋に住みたかった…
菊池さん:
深夜、レッスンを終えた先生がフォルテ・ピアノで楽しんでいらっしゃる音が聞こえてきたりするのよ。素敵でしょう。そしてスカラ先生がイモラ音楽院にフォルテ・ピアノ科を創設されて、私も学ぶようになって。フォルテ・ピアノをいろいろ弾かせていただいた中で好きだなあと思う楽器が、モーツァルトの時代のものだったの。
部下:
モーツァルトが聴いたであろう、その音に魅せられたのですね!
菊池さん:
コンサートに足を運んでくださる方に、「菊池さんのピアノを聴いていると、たまにフォルテ・ピアノの音が聞こえる」と言ってくださる方もいるんですよ。とても嬉しいです。
モダンピアノは本当に多彩で、車で言うとフェラーリのようなもの。万能だからこそ、向き合うには弾き手が合わせていくという感じがあるのだけれど、フォルテ・ピアノは楽器からこちらに近づいてきてくれるような気がするの。
ガル:
えっ楽器が?近づいてくるガル??
菊池さん:
そうなの。音があたたかくて、指で触れる鍵盤に木の温もりが感じられて。
部下:
先日のリハーサル、所用で客席にお邪魔した時、ステージから聞こえる菊池さんのピアノの音色が、まるでコンサートホールの天井から優しく音が降ってくるようで…すぐそばで優しく語りかけてくださっているような、そんな風に聞こえました。
菊池さん:
ありがとうございます!生のコンサートだからこその感動を心置きなく味わえる日が早く来てほしいですよね。
ガル:
いろいろな音楽が配信で手軽に聴ける機会も増えたガルよね。でもやっぱり、ホールで聴きたいガル…
菊池さん:
私もこのコロナ禍、配信を通じてたくさんの音楽を聴きました。でも、やはり、お客様がそのコンサートに向けて足を運んでくださり、コンサートホールの扉を開けて、開演を心待ちに客席に座っていらっしゃる。私たち音楽家もまた、コンサートに向けて練習をし、その瞬間に臨む。その臨場感、緊張感、そして一体感。その場でしか生まれ得ない感動が、生のコンサートには必ずあると思うんです。
ガル:
あした、音楽祭に生の音楽が帰ってくる…待ちきれないガル!!!
明日はいよいよオープニングコンサート!そして10月はショスタコービッチのピアノ協奏曲でのご公演も控えています。皆様、どうぞお楽しみに!
私たち部下は、菊池さんの、真摯にインタビューに答えてくださるお人柄に感動しきりでした。菊池さんのそのお人柄は、楽譜に、音楽に向き合うお姿につながっている、と部下たちは確信しています!お忙しいところお時間を割いていただき、本当にありがとうございました!