2020年1月11〜13日、3日間に渡り、ガル祭出演をかけたピアノオーディションが行われました。出場者はなんと過去最多の約140名!
さて、オーディション2日目の朝、オーディション会場の交流ホール。早起きしたガル部長が心待ちにしているのは、審査員のおひとり、ピアニスト近藤嘉宏さん。目下ピアノの練習中のガル部長、近藤さんがTwitterで発信されるつぶやきを見ながら、毎日ふむふむと何か考え込んでいるようなのです...
ガル:
近藤さん、おはようございますガルっ!ガルももっとピアノじょうずになりたくて、近藤さんのTwitter、いつも読んでるガルよっ。ガル、もっともっとお話聞いてみたいガル!
近藤さん:
ありがとうガルちゃん。
今はとても便利な時代で、自分がよいと思った演奏の楽譜はもちろん、音源、そして時には動画だってすぐに手に入れられるでしょう。こうすればこう奏でられる、いってみれば演奏のひな型がすぐに手に入るようなものなんだよね。
ガル:
ガルもおべんきょするのにまずはネットで調べよ!ってなっちゃうガル...
近藤さん:
...となると、今の若い世代、子どもたちは、おそろしいほど早く技術的に高いレベルに到達できるんだ。「今の若い人は本当に指がよく回る」って言われたりするよね。
そして、同じように高い技術をもった子たちが他にもたくさん存在している。それが現在の音楽界の特徴だといえる。
ガル:
今年のオーディション参加者は144名、小学生のおともだちはなんと60名ガル。でも、ステージに立てるのは数名ガルよね...
近藤さん:
そう。ではそのなかで頭ひとつ抜けるには…?大切なのは、技術の向上だけではなく、そこに内面的な成長が伴っているかいうこと。テクニックはもちろん、表現方法でさえ、目の前にひな型がたくさんあればある程度の高みまで行くことができる。
では、何を表現したいのか?それこそが重要なんだ。技術面で早くから高いレベルに到達してしまっているだけに、その壁がいっそう高くなってしまう。そんな時代になってきているんだよ。
ガル:
ムムム...その壁、どうやって超えたらいいガルか...
近藤さん:
昔は、いいと思う音楽に触れるために、たくさんのステップを踏んだんだ。例えば楽譜ひとつを手に入れるにしても、どうすれば入手できるのかを考え、いざ買いに行ったけどないもしれない。海外版だったらどうやって取り寄せるのか。そういう過程を経て、ようやく手に入れた喜び...
ガル:
いまはネットでポチっ…在庫があるかどうかもすぐわかるガルよね。
近藤さん:
それはとても便利なことなのだけれど、その複雑な過程を経る間に、技術的なことだけではない、何か別の側面が磨かれていったんだよね。廻り道をする過程で、色々な景色を見ることができたんだ。
ガル:
そういえば…潮博恵さんがピアノは「自分の表現と徹底的に向き合い続ける」楽器だって言ってたガル。20191120のガルガンのーとへ
近藤さん:
そう!自分と向き合わないといけないんだ。何を弾きたいのか、表現したいのか。嬉しい、楽しい、悲しい…もっともっと、自分の気持ちをピアノに込めてほしい。越えなければいけない壁は高いように見えて、実はとても単純なことなんだよ。本来あるべきもの、自分と向き合い、自分を表現すること。
その過程をスキップしてしまいがちな現代だからこそ、僕はSNSを通じて積極的に発信していきたいと思っているんだよ。
おっともう審査の時間。僕はもう行かないと!ガルちゃん、また!(颯爽と去る)
ガル:
あっあっ、ありがとございましたガルーっ!!!
はぁ…とっても大事なお話聞かせてもらえたガル…ガルはいったいどうしたらステキな音楽を演奏できるようになるガルかね...
部下:
(ススッと隣に登場)部長、去年ユベール・スダーンさんにインタビューされましたね?あのとき、「若い人たちにとって音楽祭は共に音楽を作り上げる、とてもソーシャルなイベント」っておっしゃってました。部長はこの音楽祭で、近藤さんやいろいろな人に出会って、素晴らしい音楽に触れて…それがご自分の音楽につながるのでは?
20190429ユベール・スダーンさんインタビュー
ガル:
…そうガル!そうだったガル!オーディションに参加してくれたみんなも、北陸で音楽してるみんなも、この音楽祭でいろんな経験をしてくれたら嬉しいガルよっ!
そう、オーディションは弾いて終わり、ではないのです。3日間に渡り、折に触れて審査員の先生方がお話くださる講評、それを聞くだけでもとても勉強になるのです。
ガルガンのーとを読んでくださる皆様に、特別に(!)その講評をおすそ分けいたします!
私はコンクールやオーディションがとても楽しみにしています。なぜなら一台の同じピアノが演奏者によってこれだけ音色が変わるのか、と感じることができるからです。でも今日は、1人の人がずっと弾いているような感じをやや受けたことが、少し残念に思います。
どの方もフォルテの音はよく出せているけれど、大切なのはピアノ、ピアニシモです。大きな音を出さないで、ホールの奥まで綺麗な音を響かせる。そのためにはフォルテよりも力がいるのです。(ピアノ、ピアニシモは)ただ触っているだけ、という演奏の方も見受けられました。ぜひ、これからの課題としていっていただけたらと思います。
最近の傾向として、スマホやパソコンで音楽を鑑賞される方も増えているかと思います。そのようなデジタル化された音も勉強にはなるけれど、生で聴く音楽には、聴く人の感情に直接訴えかけてくるような情熱があります。生の音楽をたくさん聴いてくださっているお子さんとそうでないお子さん、実は演奏を聴いていてよくわかるのです。
ぜひ、勇気を持って生の音楽に触れる機会を持っていただきたい。音楽は、その人の心の奥底に語りかけてくるものを持っている。時に教えられ、時に豊かにしてくれる。250年前にヨーロッパで生まれた音楽が、はるか遠く、現代のこの日本に届いて私たちの心を揺さぶる。これこそが音楽の真髄だと僕は思っています。
ぜひ、お子さんたちがその真髄に触れ、それを自分のものにしていってほしい。それが私の切なる願いです。
すべての音に意味があります。どんなに速く難しいパッセージであっても、音が重なり合って様々な形になっていても、一音一音に意味があります。その音が旋律として浮き立つ場合もあるし、そうでなくても支える部分で何かしらの意味を持っているのです。その意味を考え、すべての音をコントロールすることによって色が生まれたり、微妙にニュアンスが変わる。もう一つの柱となるのが歌うこと。いわゆる歌心を磨くこと、ここを課題として頑張っていただきたいです。
そして、演奏において大切なのは、音楽における光と影です。中でも影をどう表現するかが、音楽の一番重要な要素の一つだと考えています。影は人の心を寄せつける。その影をどのように創り上げるか。最初にお話した、どんなに速い複雑なパッセージでも、また素朴な部分でも、すべての音に意味があるのだと考えていくと、もっと立体的に演奏ができるのではないかと思います。
全体的に、きれいにまとまっているというか...もうちょっとはみ出して、自分はこれを表現したいんだ!というエネルギーやパワーが溢れる音楽でも良いのではないかな、と思いました。
ピアノオーディション、人前で弾くという機会は、ピアノを勉強される方にとって非常に良い成長の機会を与えてくれるもの。このライト、そしてピアノもふだん弾いているものとは違う、音響、予想していたのとは違う音響の広がりに戸惑ったり。それを経験することで成長するはず。これからもこのような機会を大切にしていってほしいと思います
ピアノはもちろん、音楽を勉強されている皆様にとって、いや、聴く側の皆様にとっても、興味深いお話がたくさんですよね。
さあ、この3日間の演奏を経て、どなたがガル祭のステージに立たれるのでしょうか。続報をお楽しみに!