ガル部長のお勉強5でも登場した「音楽の世界遺産」こと「ボロディン弦楽四重奏団」。その世界遺産と共演するのが、オーケストラ・アンサンブル金沢クラリネット奏者である遠藤文江さん。
遠藤さん、どんなお気持ちでステージを迎えられるのでしょうか…?ガル部長が迫ります!
ガル:
ガル、勉強したガルよ!ボロディン弦楽四重奏団さんって、1945年からずっと今まで続いてるカルテットガルよね?
遠藤:
そう!まさに世界遺産と言って間違いない存在。伝統を脈々と受け継ぐ「鉄壁のアンサンブル」と聞いているわ。
ガル:
音楽の伝統を受け継ぐ、って、弾き方とか表現方法とかもガルか?
遠藤:
私の印象だけれど、西欧の楽団は奏者が代わると音や演奏がぱぁぁっと新しくなることが多いのに対して、東欧ではメンバーの代替わりを経ながらもその美しい伝統を守り、受け継いでいる楽団が多いように思うの。
アンサンブル金沢に入団する前、ドレスデン国立歌劇場室内管弦楽団の日本ツアーに参加させていただいたことがあるのね。その時、私の演奏の仕方が彼らと合わないことがあって、何人もの楽団員の方に「いや、そうじゃない」「こうしなきゃダメだ」とレクチャーを受けたのよ。お一人お一人表現する言葉は違っても、全員が同じ意味のことを言っていて、全力でそれを私に伝えてくれたの!
ガル:
「こうあるべき」って理想の音楽のかたちを、みんなが共有してるってことガルね…すごい!
遠藤:
そこで演奏された「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」を聴いて、さらに驚いてしまって。いい意味で、今まで聴いたことのないようなアイネクライネだった。そしてきっと、10年前もこのアイネクライネだったのだろうし、10年先も、この音が受け継がれていくのだなと確信したの。ボロディン弦楽四重奏団の生み出す音も、きっとそうなのではないかしら。
ガル:
遠藤さん自身がその「鉄壁」のボロディン弦楽四重奏団と共演するって、どんな気持ちガル…?
遠藤:
嬉しい迷いが沢山あるのよ。まずは楽器。モーツァルトのクラリネット五重奏曲は、現在のクラリネットではなくて、もっと低い音まで出せるバセットクラリネットっていう楽器のために書かれているの。
ガル:
えっ?!楽器が違うガルか?!
遠藤:
そうなのよ。吹き慣れたいつものクラリネットを使うか、それともバセットクラリネットを使うか。ボロディン弦楽四重奏団の「音」にどちらが合うのか。本番前にたった1度のリハーサルがあるのだけど、そこで決めるかもしれないし、本番直前に変えるかもしれない。
部下:
ちなみに現在のクラリネット用に編曲されたのは1802年、モーツアルトが亡くなったのは1791年なんですよね。
遠藤:
そう!しかもね、モーツァルトが作曲した当時の楽譜は失われてしまっているの。
ガル:
えっっっ…(絶句)
遠藤:
モーツァルトが思い描いた、そしてアントン・シュタードラー(注:この曲は友人シュタードラーのために作曲された)が奏でたオリジナルの音を追及することも、私たち演奏家に求められることなの。
部下:
歴史の一ページを紐解いていくような時間ですね…
ガル:
演奏する技術だけじゃなくて、想像力とか探求力とか...あらゆる力が必要ガルね…あらためて、演奏家さんってすごいガル!
ガル:
遠藤さんにとってこの曲の吹いていて気持ちいい!って思うところ、ガルに教えてガル!
遠藤:
第1楽章の中で、dur(長調)の曲のなかにも、メロディーが時折すっ、とmoll(短調)になる時があって、ゾクっとするような感覚が走るの。モーツァルトが書いた41曲のシンフォニーの中でmoll(短調)はたった2曲。モーツァルトの作品の中ではmollは特別な輝きを放っていると思うの。
第2楽章では、カデンツァからテーマに戻るところにぜひ耳を澄ませて聴いてみてほしいな。ピアニシモで、とてもとても長い時間をかけて、ゆっくり元の状態に戻っていく。この部分がうまくできると、今日はいい演奏だったなあ、と思えるのよ。
ガル:
(聴いてみる)少しずつ光が差していくみたいな、神々しい感じがするガルよ…
遠藤:
モーツァルトのクラリネット五重奏曲の他に、この公演でボロディン弦楽四重奏団が演奏するショスタコーヴィッチは、ボロディン弦楽四重奏団がもっとも得意とするレパートリー。ぜひたくさんの方に聴いてほしいです!
さあ、遠藤さんはどちらの楽器を持ってステージに登場されるのでしょうか。そして、モーツァルトという音楽史の大切な1ページを、どのように伝えてくださるのでしょうか。
ご自分の出番の合間に、他の公演を聴きに行くことができるのも、音楽祭の魅力の一つだとおっしゃっていました。それが、演奏にいいスパイスを与えてくれることがある、とも!
音楽祭でしか聴くことのできない貴重なステージ、皆様お聴き逃しなく!残席わずかです!